取引先から日常的に暴言や罵声を浴びせられ、精神的に辛くなってしまっている人も多いでしょう。
特に、連休明けなど取引先や仕事からしばらく解放された後に仕事に復帰しなければならないタイミングだと、余計にしんどさを感じてしまうのではないでしょうか。
最近は上司や社長からのパワーハラスメント問題に関心が集まっていることから社内でのパワハラ対策は進んできていますが、取引先からの嫌がらせやハラスメントは「仕方のないこと」と諦めてしまっている人が社員、経営者ともに多いようです。
しかし、パワハラは会社の内部だけで起こるものではなく「取引先との関係」でも問題になりえます。取引先からの嫌がらせ行為やハラスメント行為を「カスタマーハラスメント」と呼んでいます。
もし、あなたの会社の社員たちが取引先からの嫌がらせやハラスメントに悩んでいるとしたらすぐに対策を取らなければなりません。
今回の記事では、カスタマーハラスメントの定義や取引先からの嫌がらせを放っておくことの危険性、そしてカスタマーハラスメントに対してどのように対処していくべきかをお伝えしていきます。
カスタマーハラスメントとは、簡単に言えば取引先や顧客からの嫌がらせ行為のことです。取引先や顧客という優位な立場を盾に、悪質な要求や理不尽なクレームを行う行為のことで、「カスハラ」とも略されます。
取引先からのパワーハラスメントと言ったほうがイメージしやすいかもしれませんね。カスタマーハラスメントはセクハラやパワハラ、モラハラなどに比べるとまだまだ認知度が低いハラスメントです。
ここでは簡単にカスタマーハラスメントにあたる行為の特徴を見ていきます。
仮に自社側の対応に不備があり、取引先に迷惑をかけてしまったとしても、クレーム対応以上の要求を求めてくる行為はカスタマーハラスメントにあたる可能性が高くなります。
クレーム対応はしたにもかかわらず、不当な理由で金銭の要求をしてきたり、過剰なまでの要望を強制されたりしてしまえば、会社として事業活動を続ける上で支障が出てしまいます。
もし自社の社員が取引先から対応しきれない過度に理不尽な要求を迫られているとしたら、それは立派なカスタマーハラスメントにあたりますので、企業としては社員を守っていく必要があります。
取引先の担当者から暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりなど、嫌がらせ行為があった場合はどのような理由があったにせよ、カスタマーハラスメントに該当します。
業務とは関係がなかったり明らかに逸脱した要求だったりした場合、まともに対応しようとする社員たちが疲弊し最悪の場合精神疾患につながる恐れもあります。
企業で働く社員たちに対して通常業務に支障が出るような嫌がらせを取引先から受けていないかどうか日々気を配っていく必要があるでしょう。
取引先から社員に対して相手を怯えさせるような言動や高圧的な態度を取るときも、場合によっては法的に罰せられるようなこともあります。
大声で社員を怒鳴り散らす場合や、「SNSに今回のミスについて公表してやる」などと脅迫する場合などはカスタマーハラスメントにあたるでしょう。
カスタマーハラスメントは、まだあまり広く認知されていませんし正しく理解できている方も少ないため、しばしばクレームと混合されます。
企業側としても「これはクレームなのか?カスタマーハラスメントなのか?どう対処すべきなのか?」と悩むことも多く出てくるでしょう。
しかし、両者は全く別物です。クレームは、サービスの向上や品質の改善などを目的とした「要求」や「依頼」ですので、企業はクレームに対応していくことによって改善点や反省点を見つけられます。
一方、カスタマーハラスメントは「嫌がらせ」「悪質ないじめ」「ストレス発散」などの理不尽な行為です。
クレームとカスタマーハラスメントをしっかりと区別していくことも社員たちを正しく守るうえで重要です。
認知が遅れているだけでカスタマーハラスメントは年々増加傾向にあるといわれています。ではなぜ日本においてカスハラが増えているのでしょう。その背景について見ていきます。
現代社会には日常的にさまざまなストレスがあふれています。職場で受けるストレスだけでなく、家庭内でもストレスを抱えている人が多いですし、コロナウイルスの影響で仕事がうまくいっていない人や給料が減っている人などもいて、大きなストレスを抱え込んでいる人が増えているのです。
その結果、抱え込んだストレスを発散する捌け口として、逆らえない立場にある取引先の社員に嫌がらせ行為をしてしまうのでしょう。
日本のサービス精神やおもてなしの心は、世界でも賞賛を受けていますよね。日本人としてとても誇らしいことではありますが、企業同士が切磋琢磨し、他社よりもより良いサービスを追求してきた結果、過剰すぎるサービスが当たり前になってしまいました。
その結果、取引先によっては「前の取引先の会社はここまでしてくれたのに、君の会社はこれだけしかしてくれないのか」と、過剰な要求をするケースが出てきてしまっているのです。
また昔からある「お客様は神様」という精神論がカスハラを助長する原因になっているとも言えます。
カスタマーハラスメントが増えてしまっている背景として、SNSの普及も見逃せません。SNSが普及したことにより、匿名で誹謗中傷をする人も多く、実際に気に食わない取引先について誹謗中傷を書き込む人もいます。
SNSの口コミの影響力が大きいことは誰でも想像できますので、「ネットに酷評を投稿してやる」「SNSに誹謗中傷を書き込んでお前の会社の評判下げてやる」といった脅し文句が横行してしまうのです。
このように脅されれば取引先からの無謀な要望にも対応せざるを得なくなり、対応している社員がどんどん疲弊していくのは避けられないでしょう。
取引先からの嫌がらせ行為を放っておくことで社員が精神的ダメージを受けるのは容易に想像できますが、それ以外にもさまざまな被害が発生してしまいます。
ここでは、取引先からの嫌がらせを放っておくことでどのようなリスクがあるのかをご説明していきます。
取引先からの理不尽な要求に対応しているために本来の業務がおろそかになってしまうという弊害が考えられます。
必要以上の対応を求められ、それに時間と労力を割いてしまっているために他の業務が進まなかったり、他の取引先への対応が不足して満足度を下げてしまったりと会社全体として事業活動に悪影響が出てしまいます。
そうなれば、遅かれ早かれ企業として売り上げが低下するというリスクを背負ってしまうでしょう。
悪質な嫌がらせ行為やカスタマーハラスメントを受けてしまった社員は、精神的に大きなストレスを抱えてしまいます。
特に暴力を振るわれたり土下座を強要されたり、長時間暴言を吐かれたり、ネットでの誹謗中傷を受けたりした人ほど大きなストレスを感じる傾向にあり、会社を辞めてしまうケースも少なくありません。
退職にまで至らなくても、精神的な病気を患ってしまうことで休職しなければいけなくなる場合もあります。
取引先からの嫌がらせで大切な社員を失うことは企業にとって大きな痛手でしょう。
カスタマーハラスメントが横行している背景としてSNSの普及があることはすでにお伝えしました。嫌がらせ行為としてネットやSNS上へ企業の誹謗中傷を書き込み、拡散させることで企業のイメージダメージを狙った嫌がらせも増えています。
実際、SNSに匿名で誹謗中傷を書き込まれ、それが拡散してしまったことで売り上げが下がってしまったという被害を受けている企業も存在します。
誹謗中傷を書き込まれ、それによって業績が下がってしまったなどの実害が出ているのであれば法的手段を取ることも可能ですので、そのような被害を受けた場合は誹謗中傷を書き込んだ犯人を特定することが重要になります。
参考記事:SNSなどネットで嫌がらせを受けた場合の相談先は警察?弁護士?探偵?
取引先から嫌がらせを受けている被害社員から訴えられてしまうという危険性もあります。
企業には「安全配慮義務」という、業務上での怪我や病気、危険業務から社員たちの安全を配慮しなければならない義務があります。
カスタマーハラスメントによって重度のストレスを抱えた社員に対して、企業が何かしらの対応を行わなかったり改善を試みるために行動を起こさなかったりした場合は、企業は安全配慮義務違反と見なされ、被害社員から損害賠償請求をされる可能性があります。
企業として社員たちを守るために取引先からの嫌がらせにどのように対応していけばいいのでしょうか。
ここでは、企業が取り組んでいくべきカスタマーハラスメント対策の一例を見ていきましょう。
取引先企業との関係は社員任せにするのではなく、企業側がその対応を明確に指示しなければなりません。
そして、取引先からの嫌がらせ行為やカスタマーハラスメントに対して、どこまで取引先の要望に応じなければならないのか、どの程度になったら要望を拒否してもいいのかなどの線引きを、企業が明確に示しておく必要があります。
そして、過去の事例などを参考にしながら、実際にカスタマーハラスメントを受けたらどのように対応すべきなのか研修していくことが重要です。
カスタマーハラスメントの被害は対応するまでの時間が長くなればなるほど拡大してしまいます。そのため、被害を拡大させないためにも、社内に相談窓口を設けて活用していきましょう。
よく、相談窓口を設置したものの形骸化してしまい形だけの実施になってしまったというケースがありますので、形だけにならないように、定期的に研修を行い相談窓口の存在を周知するように心がけることも大切です。
取引先からの嫌がらせに対抗する手段として、証拠を提示することはとても有効な方法です。嫌がらせ行為をする取引先と直接対応する際は、ボイスレコーダーなどを使って音声による証拠を記録しておきましょう。悪質なクレームや暴言、脅迫などをボイスレコーダーに残しておけば、強力な証拠になります。
それ以外にも嫌がらせ行為がある場合や簡単には証拠を取れないような場合は、調査のプロである探偵に嫌がらせ調査を依頼するのがベストです。
あまりにも度を超えた悪質な嫌がらせに対しては、法的手段も検討せざるを得ないでしょう。業務に支障をきたしていたり、企業の業績低下にもつながったりする場合は法律の力を借りましょう。
社員たちに危険が迫っている場合は警察へ、損害賠償請求などの法的手段を検討している場合は弁護士へ相談しましょう。その際、嫌がらせ行為がはっきりとわかる証拠があれば有利に進められますので、事前に証拠を集めておくことも重要です。
取引先からの嫌がらせによって大切な社員たちに大きな負担がかかるだけでなく企業としても売り上げが下がったりイメージダウンにつながったりと被害は大きくなってしまう可能性があります。
企業として、できるだけ早く嫌がらせ行為に気づき、対処していくことが重要です。また、定期的に調査を行うことで取引先が適した相手なのかどうか、カスハラが起きていないかどうか、SNSに誹謗中傷を受けていないかどうかをチェックしていくのも企業を守るうえで効果的です。